chapter7


 ふと考えたのだが。
 琴葉さん事前に僕が来ることを知っていたのだったら、大石さんを呼び出してくれればよかったのに。
 その方が話は早かったはずだ。
 まぁ、琴葉さんは無駄なことが嫌いだそうだから、きっと僕が大石さんのところに出向くのも意味があるんだろう。そう信じたい。
 封筒の中に入っていた一枚の紙に書いてあった住所から、僕や弘が住んでいる隣町に大石さんはいるらしい。
 隣町とはいうものの、ここからそう遠いというわけでもないので、徒歩で行くことにする。
 歩きはじめた途端――。
 ドクン、と。
 心臓が大きく脈打った。
 そして、両腕の付け根に焼けるような感覚が走る。
「何だ、これ――」
 あまりの痛さに呼吸が荒くなる。
 やがて、頭の芯にも形容しがたい痛みが走る。
 近くの公園の公衆トイレに駆け込んだ。
「ぐっ、はぁ、はぁ」
 洗面台の蛇口を前回に開き、僕は顔を突っ込んだ。
 お世辞にも冷たいとは言えない水だったが、それでも激しい頭痛がしている僕には気持ちよかった。
 依然、焼けるような感覚も頭痛も治まらない。
 ドクン、とまた大きく心臓が跳ねる。
 吐き気がこみ上げる。
 蛇口を少し閉めて、吐瀉。
 口の中に酸っぱい味が広がる。
 頭痛が、また激しくなる。
 そして、僕の意識は急に遠のいた。

 リリスがいた。
「あなたの力がついに本性を出したようですねぇ」
 本性? なんだそれは。
「能力が完全になる時には、かなりの激痛が走るらしいですけどまさかこれまでとは……。あまり人にオススメできないですね」
 おい。知らずに力を与えてたのか。
「知るわけないじゃないですか。人のこととかはっきりいってどうでもいいんですよ」
 あ。そうだ、大石さんとこに行かないと。
「大石……あぁ、統合異端審問局の魔術師ですか」
 そうそう。これ夢だろ? はやく起こしてくれよ。
「何するんですか? 大石に何か用でも?」
 あぁ、何か昨日弟子入りしないかみたいなこと言われたからちょっくら話を聞きにいこうと思ってね。
「へぇ……大石が悪魔の力を手に入れた貴方を受け入れてくれるのかなぁ」
 ん? どういうことだ?
「大石にも悲しい過去があるんですよ。そのせいで私たち悪魔と対立している」
 対立……。
「そうなんです。対立です。統合異端審問局の奴らは悪魔に関しては眼中にないんです。直接的には無害だとわかっているから」
 でも、大石さんは違う、と。悲しい過去とやらのために。
「そういうことです」
 へぇ。
「とにかく話を円滑に進めたいのならば、能力のことは伏せておいたほうがいいでしょうね」
 忠告ありがとう。
「どういたしまして。こんなに親切な悪魔なんて他にいないんですから」
 あぁ、それはもうわかったからさっさと夢から起こしてくれると僕としてはかなりうれしい。
「はいはいわかりましたよ」

 僕は、公衆トイレの床に寝転がっていたようだ。
 うへぇ汚い。
 とにもかくにも、行かなくては。
 腕をまくり、洗面台の蛇口から流れている水を手ですくって、顔を洗う。
 ぬるいとはいえ顔を洗うと幾分さっぱりした。
 さて、と。
 公衆トイレを出ると、もう日が傾いていることに気づいた。
 そんなに長い時間寝てたつもりはないんだけど。
 とりあえず、迷わないようにして行こう。場所としては聞いたことがあるのだが、実際に行った事は数えるくらいしかない。
 歩くこと40分弱。
 もう日が完全に暮れていた。
――やっぱバスのほうが良かったかな……。
 目の前には、『大石探偵事務所』の看板がある。
――情報屋に探偵ですか。
 事務所は二階にあるようで、一回は喫茶店となっていた。
 二階への狭い階段を上る。
 上りきったところで、ドアが一つ。
 僕は、そのドアをノックした。
 


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